アトピー性皮膚炎は、かゆみのある湿疹を主な症状とした、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の皮膚疾患です。
治療の基本は、ステロイド外用剤、プロトピック軟膏、デルコシチニブ軟膏、モイゼルト軟膏などの外用剤です。外用剤にはそれぞれ特徴がありますので、患者さんの状態にあわせて外用剤を選択します。
皮疹の程度に応じて選択した外用剤を、適切な量、十分な期間使用しなければ、皮膚の炎症をきちんと抑えることはできません。自己判断で治療を中止すると、すぐに再燃してきます。
外用剤の使い方は、初めに必要量を十分に使用し、徐々に減らしていくことです。塗る回数、量、期間、塗り方について適切に取り組むことで、症状をコントロールしましょう。
アトピー性皮膚炎の方はアレルギー体質の方が多く、自宅や職場など環境の問題があることがあります。いい状態と悪い状態が繰り返す疾患ですが、症状の波をできるだけ小さくするために定期的な通院が必要です。
治療のゴールは症状がない状態、あるいは痒みがなくなるか、もしくはあっても軽微で日常生活に支障がない程度になることが目標です。快適な日常生活を送ることを目標にしましょう。
当院ではアトピー性皮膚炎の治療薬として、全身療法であるデュピクセント®やオルミエント®、リンヴォック®、サイバインコ®、ミチーガ®、アドトラーザ®、イブグリース®による治療を行っています。
中等症から重症のアトピー性皮膚炎の方が対象です。詳しくは以下をご参照ください。
アトピー性皮膚炎の治療薬として初めての生物学的製剤です。IL-4とIL-13というサイトカインの働きを直接抑えることで、皮膚の2型炎症反応を抑制するお薬です。
アトピー性皮膚炎の内部に起きている炎症反応を抑えることによって、炎症、かゆみ、皮膚バリア破壊などのすべてに対する効果が期待できます。
アトピー性皮膚炎の治療では、下記のような状態を維持することを目指します。
デュピクセント®の投与により、アトピー性皮膚炎以外のアレルギー性疾患の症状が変化する可能性があります。アレルギー性疾患(喘息、慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、じんましんなど)を合併している場合は、必ずお伝えください。
初回に600mg(2本)、2回目以降は300mg(1本)を2週に1回皮下注射を行います。
自己注射は院内で2回の指導を受けてから開始することができます。
当院では最大6本(3か月分)まで処方が可能です。
デュピクセント®薬剤費:1本あたり 61,714円
3割負担の方:1本あたり 18,514円(初回は2本:37,028円)
*別途、診察料、処方箋料や、自己注射になれば導入初期加算や在宅自己注射指導管理料が発生します。
デュピクセント®の治療は高額になります。患者さんの経済的な負担を軽減するために、以下のようなさまざまな医療費助成制度があります。
医療費助成制度について、ご質問があれば説明しますので、受診の際にお尋ねください。
*自己注射が不安な方は3回目で開始せず、手技が確立してから自己注射に移行します。
自己注射を行うことで、通院の負担が減り、高額療養費制度で自己負担額を減額することができます(所得によります)。
オルミエントは、JAK阻害薬と呼ばれる飲み薬で、炎症の信号を伝える経路のひとつである「JAK-STAT経路」をブロックすることで、サイトカインが受容体に結合しても炎症やかゆみを引き起こす信号が細胞核に伝わらないようにし、アトピー性皮膚炎の症状に関与する複数のサイトカインの働きを抑えることで、かゆみや皮膚の炎症を抑えます。
オルミエントは1日1回、1錠の飲み薬です。
服薬時間の制限はありませんので、1日の中で生活スタイルに合った時間帯に飲むことができます。
通常は4mg錠を1日1回1錠、毎日服用します。
患者さんの状態によっては、半分量の2mg錠に減量することができます。
オルミエント®は、今までの治療の治療では十分な効果が得られない成人アトピー性皮膚炎患者さんにお使いいただけます。
具体的にはステロイド外用薬などの抗炎症外用剤を一定期間投与しても十分な効果が得られない15歳以上のアトピー性皮膚炎の方が対象となります。
オルミエント®は低分子化合製剤の内服薬で注射に抵抗がある患者さんに適しています。
抗体ができず、中断・再投与して効果が減弱することはありません。かゆみへの効果が早いことが特徴です。
以下の方は投与することができません。
以下の方は投与に注意が必要です。
オルミエント®の服用時は、肺炎などの感染症や帯状疱疹、静脈血栓症、間質性肺炎、消化管穿孔、横紋筋融解症・ミオパチー、心筋梗塞、脳卒中、悪性腫瘍の発生に注意が必要です。
オルミエント®の薬価は4mgで5274.9円/錠、2mgで2705.9円/錠で3割負担の場合、4mgを1か月内服すると45,000円程度、2mgを1か月内服すると23,000円程度になります。
オルミエント®の治療費は高額です。
3か月の長期処方をすることで高額療養費制度などを用いた助成制度を受けられる可能性があります(所得によります)。
リンヴォック®は、今までの治療の治療では十分な効果が得られない成人アトピー性皮膚炎患者さんにお使いいただけます。
具体的にはステロイド外用薬などの抗炎症外用剤を一定期間投与しても十分な効果が得られない12歳以上のアトピー性皮膚炎の方が対象となります。
リンヴォック®は低分子化合製剤の内服薬で注射に抵抗がある患者さんに適しています。
抗体ができず、中断・再投与して効果が減弱することはありません。
かゆみへの効果が早いことが特徴です。
以下の方は投与することができません。
以下の方は投与に注意が必要です。
リンヴォック®の服用時は、ニキビ、肺炎などの感染症や帯状疱疹、肝障害、静脈血栓症、消化管穿孔、血中クレアチンキナーゼ上昇、心筋梗塞、脳卒中、悪性腫瘍の発生に注意が必要です。
リンヴォック®の薬価は15mgで5089.2円/錠、30mgで7351.8円/錠で3割負担の場合、15mgを1か月内服すると42,000円程度、30mgを1か月内服すると63,000円程度になります。
リンヴォック®の治療費は高額です。3か月の長期処方をすることで高額療養費制度などを用いた助成制度を受けられる可能性があります(所得によります)。
腎機能障害のある患者さんは、サイバインコ®の用量の調節が必要です。
免疫を抑制するため、発熱や倦怠感、皮膚の感染症、咳が続く、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意してください。
内服中は他のJAK阻害剤と同様に定期的な血液検査が必要になります。
名称の由来は、mitigate(軽減する)とitch(痒み)を組み合わせてMitigate the Itch(かゆみを和らげる)の意味で、アトピー性皮膚炎患者さんを最も苦しませるかゆみから解放し、QOLの向上した快適な日常を過ごしてほしいという思いが込められて命名されました。
アドトラーザ®は2023年9月26日に発売されたIL-13を阻害する生物学的製剤です。
アトピー性皮膚炎の発症に重要な役割をもつ免疫調節性サイトカインであるIL-13は受容体を介してシグナルを伝え痒みの発生や皮膚バリア機能に異常をおこします。
アドトラーザ®はIL-13を介したシグナル伝達を阻害することにより、アトピー性皮膚炎に対して効果を発揮します。
・15歳以上のアトピー性皮膚炎の患者さん
・従来の治療(ステロイド外用剤など)では十分な効果が得られない患者さん
導入月 | 2か月目以降 | |
3割負担 | 52,731円 | 35,154円 |
2割負担 | 35,154円 | 23,436円 |
1割負担 | 17,577円 | 11,718円 |
イブグリース®は2024年5月31日に発売されたIL-13のシグナル伝達を阻害する生物学的製剤です。
アトピー性皮膚炎の発症に重要な役割をもつサイトカインであるIL-13は2型炎症を誘導することで痒みの発生や皮膚バリア機能障害、皮膚肥厚、易感染性を引き起こします。
イブグリース®はIL-13に高親和性で結合するヒト化抗ヒトIL-13モノクローナル抗体です。
IL-13受容体複合体の形成とシグナル伝達を阻害し、IL-13を介したアトピー性皮膚炎の病態形成を抑制します。
初回及び2週後に1回500mg、4週以降、1回250mgを2週間隔で皮下投与します。
患者さんの状態に応じて、4週以降、1回250mgを4週間隔で皮下投与することが出来ます。
アトピー性皮膚炎の全身療法の中で4週間に1回の注射製剤はミチ-ガ®とイブグリース®のみです。